『寺子屋、福先生のつぶやき②』 ※らいとPLAZA7月号に掲載

―反抗期(家庭内ミニトラブル)とどう向き合うか―

  K君が私のクラスに転校してきたのは、 5年生の10月だったと思います。前の学校での成績は5段階評価ですべて5の優秀な成績でした。聡明でおとなしい感じの子で、クラスにもすぐに馴染み、毎日元気いっぱいの学校生活を送ることができました。6年生になり、さらに積極性が加わり、学級代表にも選ばれました。そんな矢先に事件が起きました。
 5 月初めの家庭訪問の折、お母さんから突然、「息子とトラブルになり、けがをした。最近時々暴れるので、どうしたらよいか」と涙ながらに切り出されました。まさに晴天の霹靂。さらに詳しく事件の経緯をお聞きしたところ「塾に行く時間になっても部屋から出てこないので催促したら、突然ブチ切れ、暴れだした!それを抑えようとして関節を捻挫した。最近何かに苛立っており、突然、物を投げたり、壁を蹴ったり、始末に負えなくなる」とのこと。彼の部屋の荒れた様子からも事態の深刻さがうかがえました。学校生活の様子からは全く想像できないことなので「明日、K君の話を聞いてみます。それからどうするか考えましょう。」と明日の面談を約束して、K君宅を後にしました。
  K君の家庭環境を簡単にお話ししますと、父親は、大企業のエンジニア、母親は専業主婦。妹(2歳下)小学4年生。社宅に住み、特に問題は感じられない普通のご家庭です。次の日、K君から、詳しい経緯を聞くことができました。「帰宅後、毎日塾と習い事があり、全く友達と遊ぶ時間も自由な時間もなく、苦しい!」ということでした。6年になって数回、暴力をふるってしまったと涙ながらに白状しました。母親にけがをさせたことを悔やんでおり、どうしたらよいか悩み苦しんでいる様子も伺えました。「私が何とかするから、もう二度と暴れたり、家族を悲しませるようなことはしないこと」を約束し、面談を終えました。
 放課後、お父さん、お母さんに学校に来ていただき、K君との面談の結果を、そのままお伝えして、下記に示したような私の方針を説明したところ『先生にお任せします。』との了解を得ることができました。まず、K君にとって、ご家庭は安らぎの場であり、明日への活力を得る場でもあること。さらに学校での生活態度、学習態度、交友関係等、全く問題なく、級友の信頼も厚く、親御さんの心配することは何もないこと。を理解していただいた後で
〇当分の間、放課後の過ごし方についてはK君の判断に任せること。
〇K君を全面的に信頼し、K君の主体性と自立心を尊重すること。
をご両親に約束してもらいました。
 その後、K君は、常に向上の意欲をもって学校生活を送り、善行児童の表彰も受け、立派に卒業しました。しかし、これは問題行動を早期に発見し、保護者が児童の悲痛な叫びに耳を傾け、寄り添えたからこそ成し得た、まれなケースです。こうした適切な対応に恵まれず、家庭内暴力や家出、自傷行為、不登校など、さらに悲劇的な事態に発展することのほうが、はるかに多いのが現実です。
 既存の権威に対する疑問や反抗は自我に目覚める思春期の特徴でもあります。同時にこの時期は多彩な能力が開花する時期でもあります。力や権威で押し戻すのではなく、わが子の人権を尊重し、納得いくまで親子で話し合うことが何よりも大切です。